Cafe Vita

新聞には日々、くらしや文化をめぐる話や人が集います。わたしたちを生き生きとつなぐものを見つけるCafeです。

「他者」になる体験から見えるもの

 新幹線の車窓に浮かぶ富士山。緑濃い茶畑。東北の冬にはない、ほのぼのと暖かな日差しの色。楽器とオートバイとウナギの街、遠州・浜松を先日、仲間と一緒に初めて訪ねました。地元のNPO法人「子育て情報ネットワークぴっぴ」(理事長・原田博子さん、会員30人)から、私も参加している「Switch-onプロジェクト」(本ブログ『語ろう 発信するって?伝えるって?』参照 )に、ある依頼があったからです。

 「ぴっぴ」は、600人のサポーターや行政、企業などとネットワークを組み、子育て中の「知りたい」「相談したい」「つながりたい」に応える地域SNSの子育て情報サイトを運営し、子育てサークルのブログ広場を設けたり、増える託児希望を支える側の養成講座、診療機関と組んだ「託児つき乳がん検診」を行うなど、さまざまな支援活動に取り組んでいます。昨年からは、会場となった市子育て情報センターの指定管理者でもあります。

 自分たちの情報サイト運営のほか、市内の公園や公共施設、街の環境などをレポートする「取材ママ」を募集したり、子育て中のお母さん、お父さんや育児グループのブログの場を提供したり、かかわる人々にとって「書く」というスキルは毎日の必需品です。
 そこで、依頼されたのが「伝わる文章を書くために必要な視点を学ぶ」ワークショップ。子育て中やブログを書いている「ぴっぴ」会員、ミニコミに執筆する在宅の主婦ライター、地元の経済情報誌の編集者、美容室のウェブサイトやイベントの制作・企画をしている男性、商店街関係者ら、顔ぶれも多彩な20人余りが受講しました。

 プログラムは、「Switch-onプロジェクト」の仲間が考案した実践的なものでした。一口に言えば、『他者になってみる』。
 私たちは日常、外部の異なる立場の相手と、ものごとを打診したり、提案したり、説得したりして合意をつくり、新しい仕事や活動を始めるわけですが、そのための「依頼書を書こう」がテーマでした。
具体的な状況設定は、NPOの「ぴっぴ」が街のジュエリー店に子育て支援を依頼する−というものです。突飛な組み合わせのようですが、受講生は5つのグループになって、それぞれに頭をひねりました。

 ワークショップは各グループごとに、まず全員がNPO側になって、「ジュエリー店と協力して何かをしたい。では、何をしたいか?」の目的や狙い、アイデアを議論しました。つまり、何を伝えたいのか? 何を書きたいのか?−を明確にしてゆく作業です。いろんな面白い案が出ました。思いつくままに語り合い、「ポストイット」に書き出してゆきます。

 ・小さな子がいると付けられないジュエリーを楽しむ、託児サービス
 ・親子で楽しめるジュエリーブランドづくり
 ・子どもができたらパワーストーンや宝石1個をお祝いにし、その後の“記念日”ごとに増えてゆく、子育てのお守りジュエリーを商品化する
 ・子どもの小遣いでできるアクセサリー作りをパパとと子どもが一緒にして、パパへのプレゼントにし、同時にママの自由時間もつくる
 ・子どもを抱いていても、安全で壊れにくく、片手で楽に装着できるジュエリーの開発
 ・自分が漏っているジュエリーを子どもに託すときの“記念日リフォーム”を行う−などなど。

 次に、今度は全員がジュエリー店の立場になり、こちら側にはいま、どんな問題や課題があるのかを議論します。これまた、いろんな“言い分”が出てきました。

 ・不景気もあり、ジュエリーの需要が落ち込んでいる
 ・子どもに触られると汚れる
 ・キッズスペースを設けると、店の雰囲気が変わる
 ・あまりリーズナブルな値段のイメージがつくと、逆に高級感あるジュエリー店にはマイナス
 ・子どもが騒いでいる店に、他の客は入りたくない
 ・仕入れ値も人件費、テナント料、広告費も高い
 
 いかがでしょう。立場が変わると、考えることも180度変わります。一方からの考え(仮説と呼びましょう)だけを訴えても−それがどんなにいいアイデアだとしても、あるいはジュエリー店の側が本音では現状を打開したいと思っていても−、双方のギャップはこれだけあります。ここで参加者たちは考え込み、解決策を模索し、議論しました。
 「支援を依頼する」とは、ある立場に固執する「発想の枠」を超え、他者の課題も知り、双方がプラスを得られるような魅力的な解決策を見つけて、つまりは「協働」を提案すること。そのトレーニングだったのです。

 「当事者と他者の間の立場・視点の移動を体験する」という今回のWSは、私にとっても興味深く示唆に富むものでした。「絶対的他者」である新聞記者の立場から、当事者との壁や溝をどう越えて、「つながる場」をつくれるか?−は私の日ごろ考えるテーマでもあったからです。

 支援が必要な側が一方的に売り込んだり訴えたりしても、相手はなかなか動かないものです。相手もまたさまざま事情があり、なにがしかのメリットも考えたいからです。
 「なぜ分かってくれない?!」ではなくて、相手の側に本気でなってみての議論の土俵作りを試みることで、横たわる障害は何か、課題は何か、も立体的に浮かび、そこにどんな橋を架ける提案をすればよいか、が見えてくる−。
 議論が盛り上がった参加者の方々も、その面白さを共有してくれたようです。

 また、マスメディアの記者もしばしばそうなりがちなように、固定カメラのようにどちらかの立場を「正」「邪」と言うばかりでは問題解決にならず、2者のサイドがあれば2次方程式、3者であれば3次方程式の思考と解き方、提案が必要になってくること。言葉を変えれば、「協働」の可能性を探ることでもあります。

 さらに、NPOなどの「広報」という角度から見ても、こちらの思いばかり伝えても相手には響かず、“One size for all”(1つのサイズで万人向け)でなく、ターゲットとしたい相手のニーズや悩みやをよく知ることで、具体的に、誰にどこに何をどう伝えられるか、が分かってくる。広報とは一方的な宣伝でなく、まさに“Interactive”(双方向で作用する)ものである、ということでした。

 いかがでしょう。日常のさまざまな場面で、「他者になってみる」視点は役立ちそうです。







 

 

 

 
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2010年02月09日01:00
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