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新刊本をときに鋭く、ときには大胆に批評するページ

『万歳アンラッキー』石田明(NON STYLE)著 笑うしかないエピソードが満載


 芸人一ツイてないという男、NON STYLE石田明さんの幼少期から現在にいたるまでのアンラッキーなエピソード集だ。
 幼い頃、上の2人の兄のおもちゃとして「アキラ遊び」なるものが行われ、「アキラ隠しゲーム」でヘドロだらけの溝に隠されるなど毎日が罰ゲーム状態。サンタさんに欲しいものを枕元に書いて寝たら「もうちょっと安くなりませんか?」と値切られた。
 カルシウムが圧倒的に不足したまま成長してしまったため、32歳にして骨密度がおじいちゃんレベル。そのせいで、定期的な骨折を余儀なくされている。
 酒癖も悪く、酔っ払うとまるで特技のように記憶をなくす。酔い潰れて寝ていて常に脇腹を蹴られているような感覚で目が覚めると、エレベーターに挟まれ続けていた……なんてもう、不運を通り越して「笑うしかない」エピソードが満載だ。
 そんな石田さん、先日とある深夜のバラエティー番組で催眠術をかけられていた。石田さんの催眠術のかかりっぷりは尋常ではなく、術師にも「石田くんのかかりやすさは東洋一だね」と言わせるほどの、それは見事な催眠体質だった。
 もしかして、催眠術にすぐかかってしまうのは、この不運な人生を忘れたいから!?
 (ワニブックス 1200円+税)=江藤かんな

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2012年05月21日16:30
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『無名の女たち 私の心に響いた24人』向井万起男著 なんとチャーミングな人たち


 おかっぱ頭に無精ひげ、いまだ“宇宙飛行士向井千秋さんの夫”と称されることがあまりに多いという向井万起男さんの、人生に大きな影響を与えた24人の女友達のおはなし。
 今大人気の漫画(映画も大ヒット公開中)『宇宙兄弟』の発想の元は、向井さんの初エッセイ本『君について行こう 女房は宇宙をめざした』であり(ちなみに漫画では、誰がどう見ても向井さんがモデルであるとわかる人物が登場している)、2009年には講談社エッセイ賞も受賞するなど、見た目通り?のユニークな文才には定評がある。ちなみに、本業は医師。
 いつの時代にも語られる「男と女の間に友情は成り立つのか?」という議論をバカバカしいとばっさり切り捨て、「成り立つに決まっている」と断言する。私自身もこの手のくだらない議論に飽き飽きとしていたので、早速、向井さんについて行くことに。
 ミーハーな話で意気投合した同世代の会社の代表、巨人の開幕戦のチケットをくれるバッグパッカーの女性、モテモテなのに結婚する気がない35歳の女性……など、向井さんの周りにいる女友達とのときに風変りで、ときに泣かせるエピソードの数々が綴られている。
 24人の話を読み終えて思うのは、なんとチャーミングな人なのだろうと。ちょっとひねくれてはいるけれどなんでも面白がる能力にたけていて、向井さんに友達だと認められているこの24人の女性がうらやましい。
 (講談社 1300円+税)=江藤かんな

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2012年05月21日16:30
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『純喫茶コレクション』難波里奈著 アイ・ラブ・喫茶店! 


 「カフェと喫茶店の違いは?」と聞かれたら、どう答えるだろうか。
 「若い女の子がたくさん来てるとカフェで、おじいさんおばあさんが多いと喫茶店」「日本全国どこにでもあるのが喫茶店」など、人それぞれの持論があると思うが、私は古くから紡がれてきたであろう時間を感じられる空間かどうかこそが最大の違いではないかと思う。
 もっとも、最近は古民家を再生利用したカフェなんかも多いが、それでも本物の年月の蓄積にはかなわないように思う。ドアを開けた瞬間に感じる異空間―どこかで時間が止まったかのような喫茶店ですごす時間は、私にとっては格別だ。
 本書は、純喫茶好きの著者が、十数年前から日課のように続けていた全国の純喫茶散策の記録。ちなみに純喫茶とは酒類を取り扱わない喫茶店のこと。「純喫茶のよさは100の店があれば100の個性があること」と述べるように、そのマスターならではの、その土地ならではの喫茶店として存在していることも魅力のひとつ。
 「喫茶店の良さは精神的な間口の広さと狭さ。つまり、暗黙の了解で年齢とか人種とかをいまどきのおしゃれカフェは選別している」と言っていたのは『ぼくの伯父さんの喫茶店学入門』『東京喫茶店案内』などの著書を持ち、喫茶店への造詣が深い沼田元氣氏。本書は、そんな氏がデザインした美しい装丁と、持ち運びに嬉しい珍しい判型、推薦コメントと三拍子揃ったパッケージも豪華。
 カフェブームに押されて、好きだった喫茶店がどんどんとなくなっていくのが悲しい。非日常を味わえるアトラクション感覚で、喫茶店への一歩を踏み出してみませんか?
 (PARCO出版 1600円+税)=江藤かんな

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2012年05月21日16:30
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『東北美酒(びしゅ)らん』 葉石かおり 著


 エッセイストで、利き酒師でもある著者が、東日本大震災で大きな被害を受けた酒蔵を応援しようと、東北6県の日本酒148銘柄を紹介している。口当たりや香りなどの味わいや仕込みの特徴をコンパクトに記述している。

 一本一本を利き酒し、「円熟味を楽しむためにも、冷やしすぎは禁物」「燗(かん)にするとやわらかな飲み口に」などと飲み方を丁寧にアドバイス。それぞれの酒に合う料理を具体的に紹介している。

 各銘柄の紹介のほかに、被災した六つの酒蔵を取材したルポが掲載されている。それぞれの蔵が、全国からの支援を受けて復興に向けて歩む姿からは、酒造りへの誇りが感じられる。

 日本酒ができるまでの過程やお薦めのおつまみなどを記述したコーナーもあり、日本酒を身近に楽しむきっかけになりそうな1冊だ。印税の一部は、被災地への義援金となる。

 角川書店03(3238)8555=1470円。
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2012年05月21日11:46
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『三陸にジオパークを』 高木秀雄 著


 ジオパークとは地質や地形を見どころにした自然公園。地質学の専門家が、4億年ほど前からの古い地層が見られるなどの三陸沿岸の地質的特徴に注目し、自然保護と同時に教育や観光に役立てる方策を示している。

 早大教授の著者が考えるジオパークの範囲は、岩手県から宮城県牡鹿半島まで。特に、大船渡市と牡鹿半島の間の地域では、古生代から中生代の地層が連続し、日本の古い地層の観察に最適だという。地形の成り立ちなどを観察するジオツアーは、地学への関心を高め、地域振興にもつながる。防災教育もパークのテーマの一つに盛り込み、後世への教訓として、東日本大震災で被害を受けた建造物などを保全する必要性にも言及している。

 三陸ジオパーク構想は、震災後の東北が取るべき針路として、河北新報社が掲げた3分野11項目の提言にも盛り込まれた。本書は、日本列島の地質的特徴や地震のメカニズムなども分かりやすく解説しており、構想の理解を促す格好のガイドブックになるだろう。

 早稲田大学出版部03(3203)1551=987円。
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2012年05月21日11:45
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『ドキュメント震災三十一文字 鎮魂と希望』 NHK「震災を詠む」取材班 編 短歌と歌に刻んだ祈り


 <生きねばと仮設のそばの荒地借り記憶辿りて野菜種まく>(宮城県山元町、島田啓三郎)<死に顔を「気持ち悪い」と思ったよごめんじいちゃんひどい孫だね>(気仙沼市、畠山海香)。東日本大震災で被災した20人の短歌と歌に刻まれたドキュメントを織り交ぜ、被災体験の記憶や犠牲者への鎮魂、復興への思いなどを紹介している。三十一文字(みそひともじ)に刻まれた震災の記憶は、再生への祈りのようだ。

 本著は2011年12月と12年1月に放送されたNHKの震災と短歌に関する二つのテレビ番組を基に、再取材をして書籍化した。過酷な現実の中、歌を詠むことで人とつながろうとする思いが伝わってくる。

 島田さんはことしで86歳。イチゴ農家を営んでいたが、家も栽培用ハウスも全て津波で流され、病気の妻の介護をしながら避難所生活を送った。町内の仮設住宅で暮らし、イチゴ栽培を町内で再開した息子夫婦を応援している。

 島田さんは震災直後を除き、ほぼ毎日のように短歌と俳句を作り続けている。生きる証しと復興への決意を短歌に託すことが生きる力となり、家族のために小さな畑で野菜作りにも励んでいる。

 前書きは河北歌壇選者で仙台市の佐藤通雅さん。河北歌壇に寄せられた震災詠の量と質に圧倒され、何度も涙を流したという。

 NHK出版0570(000)321=1575円。
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2012年05月21日11:43
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『子どもたちの3・11 東日本大震災を忘れない』 Create Media 編 懸命に前へ向かう


 東日本大震災から1年以上がたち、復興が一歩ずつ進み始めた。記憶をたどることはつらいが、子どもたちは今、出来事を率直に受け止め、懸命に前へ向かおうとしている。岩手、宮城、福島、茨城4県の10代の子どもたち44人がつづった思い。被災を乗り越えたその力を今後の生きる力に変えてもらおうと、企画・編集された。

 インターネットを通じて被災地の子どもたちから投稿を募り、実名またはペンネームの文章を県別に紹介する。募金やボランティア活動、チャリティー商品の開発・販売など、継続的な被災地支援の方法をまとめたコラムも収めた。

 岩手県の16歳は津波で家族が亡くなったことを笑顔で話すいとこを見て、「悲しみを押し殺していたんです。この子は以前、お母さんべったりなわがままな子だったのですが、とてもがんばっていました。強くなっていました。私も強くなりたい」と振り返る。

 遺体安置所でボランティアをした宮城県の17歳は「家に帰って一人になると、恐怖に襲われました。眠りについても、津波にのまれる夢でした」。それでも気丈に「千年後に同じように犠牲者が出ないように、多くの人に語り継いでいってもらいたい」と呼び掛ける。

 「ここには地震も、津波も、放射能もありません。なんだか不思議な気持ちです」と福島県から岡山県に避難した10歳。「新しい学校で友だちをつくり、家族で幸せになりたい」「はやく原発を直して、きれいな福島に戻してほしいです」と複雑な心境をのぞかせる。

 執筆した子どもたちには、自立支援のためそれぞれ1万円が、初版の印税から支払われる。

 学事出版03(3255)5471=1575円。
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2012年05月21日11:37
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『新・幸福論 青い鳥の去ったあと』五木寛之著 ビビってる場合じゃねえ 


 それにしても、すごいっすねこの表紙! 付き合いはじめたばっかの恋人の部屋に行って、本棚にこの表紙を見つけちゃったら、その後の展開確実に変わるだろうなー。ってくらい「インパク知」な表紙。
 ポプラ社創立65周年記念として発行された本書。現代日本を覆う「ぼんやりとした不安」は一体どうすれば拭われ、幸福を感じることができるか、そのことを考察したエッセーだ。
 五木寛之って今年80歳なんですね! 老人じゃん。そんな歳とは思えないほど現代日本を見つめる視線の鋭く、素直な筆致。きれいごとを語らず、「これだから最近の若者は」的説教もせず、小娘にも届くやさしい言葉で綴っている五木。「真面目か!」と突っ込みたくなる表紙とは裏腹に、本の中で語っているのは、ずいぶんと話の分かるおじいちゃんだ。
 この間、飲みの席で20歳くらい上のオジサンに「いいなーお前はまだ若くって」と言われた。「だってうまいことやればあと50年は行けるだろ。50年後に日本がどうなってるか、俺も見てみたいもん」だって。そうか、五木寛之もそのオジサンも、これからの日本を、案じつつも期待してるんだろうな。戦後の大逆転みたいに、とはきっといかないだろうけど、現代日本の新しい幸福論を見つけたら、きっとあたしたちは無敵になれるんじゃないかな。ビビってる場合じゃないってことですね。
 (ポプラ社 1100円+税)=アリー・マントワネット

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2012年05月14日16:30
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『京都散歩』雅姫著 カリスマモデルに見る日本女性の顔面美意識


 「優雅なお姫さま」と書いて雅姫(まさき)。わあ、強気〜!な名前を持つ女性をご存じですか? モデルでありデザイナーの彼女は、アラサー女性のカリスマ的存在。趣味は写真、カフェめぐり、スカートとスイーツと朝寝坊が好きな(すべて想像)森ガールならぬ森おばさんの羨望の的なのだ。
 そんな彼女の新刊は、その名の通り雅姫がアテンドする京都散策。いろいろな服を着た雅姫が名所を歩く姿から、お茶を飲みつつほっと一息なショットまで、「素顔」的カットがてんこもり。
 この本を眺めながら、雅姫という女性がなんでここまで人気なのか考えてみた。彼女のスタイルがなんかに似てると思ったら、あれだ、「モーニング娘。」。あのー、全盛期のモーニング娘。って覚えてますか? 『恋のダンスサイト』のときのアラビアン的衣装に、ミニモニ。の偏差値低そうなカマトト衣装、果ては「三人祭」とか「10人祭」とか言って、ハッピ着たりしてましたよね。彼女たちって、首から下がどんどん過剰にヘンテコな格好になっていく一方で、一貫して首から上はコンサバな、好感度の高いメイクだった。
 当時それをひそかに「首から上モテ」と呼んでいたのですが、雅姫もそんな感じ。首から下は図書館司書みたいな、奥ゆかしい、男ウケというより女ウケなスタイルでありながら、顔面は美女。それが多くの人に愛されるゆえんなのかも。女性の生き方がどれだけ多様化し、自由になっていっても、まだまだ日本女性の顔面美意識は保守的なのかもしれません……なーんつってな!
 (扶桑社 1400円+税)=アリー・マントワネット

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2012年05月14日16:30
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『鼓動』犬猫みなしご救援隊 著 金子二三夫 写真

 福島第1原発周辺に取り残された犬や猫を救出した広島市のNPO法人「犬猫みなしご救援隊」(中谷百里代表)の活動記録。住民がいなくなった街で衰弱していた動物を懸命に救う様子を伝える本書は、動物たちそれぞれの命の重みを強く訴えかける。


 救援隊は東日本大震災発生直後の昨年3月13日から、主に福島県で活動。防護服を着用してペットたちを保護したり、えさを与えたりしてきた。救出した動物は、犬や猫を中心に1300匹を超す。

 活動を開始しようとしたとき、被災地の外では「動物どころではないだろう」と批判された。一方、現地では「生きていてくれるものがあれば、わたしたちに代わって面倒をみてほしい」と声をかけられたという。

 救援隊は動物の引き取り手を探す活動も行っており、8月には、栃木県に被災動物のためのシェルターを設けた。

 病気で苦しみながらさまよい続けていた動物の写真が数多く掲載されている。原発事故が何の罪もない生き物たちにもたらした、むごたらしい状況の記録でもある。

 書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)092(735)2802=1575円。
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2012年05月14日12:33
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『風の王国 第1巻』平谷美樹 著 渤海の少年ルーツ探し

 岩手県金ケ崎町在住の作家が書き下ろした文庫本の時代小説(全10巻)の第1巻。2008〜10年に河北新報に連載された「沙棗(さそう) 義経になった男」に続く文庫作品だ。10世紀の東日流(つがる=現在の青森県津軽地方)、渤海(現在の中国東北部)と隣の契丹の3国を舞台に、冒険や戦い、恋などを描いている。


 「風の王国」は史実を参考にしたフィクション。主人公は赤ん坊のときに渤海から友好国の東日流に漂着した船から拾われた少年だ。たくましい17歳に育った少年が、自らのルーツを知ろうと親友らと母国へ渡航。陰謀で殺された、王族の流れをくむ上級官吏の子息だったことが判明する。

 ここから物語は東日流の支援を受ける渤海と、渤海への侵略を狙う契丹による攻防に発展する。第1巻では少年らの活躍で渤海内部の意外な暗闘があぶり出され、第2巻(6月に刊行予定)以降では、少年と契丹の王子の対決を中心とした国の存亡を懸けた壮大な戦いが繰り広げられる。

 平谷美樹さんは「テーマは東日本大震災を機にわれわれが気付いた国と個人の考え方の違い」と言う。国はどうあるべきか、国は個人に何をしてくれるのか、個人は国のために何をなすべきか。信じる道を突き進む主人公の行動を通じて、それが浮かび上がってくる。

 角川春樹事務所03(3263)5881=700円。
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2012年05月14日12:32
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『東北への眼差し』藤原作弥 著 震災日本再生の好機に

 仙台市出身で日銀副総裁を務めたジャーナリストのエッセー集。日米関係、金融政策から書評、映画評まで硬軟取り混ぜた150余話は、日本、東北のこれからを考えるヒントに満ちている。


 明治以来の日本の社会システムは、米国との関係によって40年ごとに変化したという分析をもとに、2020年代からの日本は「生活文化立国」を目指すべきだと、著者は主張してきた。東日本大震災を経て、それはさらに強固になった。震災を東北だけでなく日本再生のチャンスにしようと、繰り返し提起する。

 文化の分野では、著者が被災地支援の裏方を務めた話が心に残った。劇団四季のミュージカル「ユタと不思議な仲間たち」の東北特別講演に同行し、宮城県南三陸町で観客の中学生と劇を楽しみ、合唱し、涙を流した。原作は、著者が学生時代に傾倒したという八戸市出身の作家三浦哲郎。登場する座敷わらしを通じ、困難にめげず生き抜くことの大切さを教えていると、解説する。

 本の題名と同名の第6章には、震災後の日々の記録、世界を歩き古里に戻った著者による「東北人」論、委員として議論に参加した河北新報社の「東北再生委員会」の提言(総論)を盛り込んだ。そのまなざしはいつも温かい。

 巻末には経済同友会終身幹事の品川正治氏との対談を置いた。原発反対派の品川氏に対し、著者は推進の立場だが、意見は一致する。人間にとって、国土にとって何がいいのかを基本に、復興を進めたい−。対立ではなく対話を、というメッセージが伝わってくる。

 愛育社03(3291)8600=2415円。
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2012年05月14日12:27
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『紙の月』角田光代著 愚かな女のはずが


 自分とはかけ離れた主人公だと思いきや、共感してしまう。私は愛人の妻が産んだ赤ん坊を誘拐しない、私なら若い男のために横領をするわけがない。そう思っていると、まるで心の奥底に隠している自分を描かれているような気がしてきて、泣けてくる。角田光代のマジックだ。
 冒頭はタイの風景。勤務先での1億円横領が発覚し、逃亡している41歳の梅澤梨花の姿からはじまる。もし子づくりがうまくいっていれば、夫の言葉の端々に「養われている感」を覚えなかったかもしれない。銀行のパートタイムをはじめなかったかもしれない。もし貧乏な大学生・光太と出会っていなければ……。梨花の回想と、梨花の友人や昔の恋人の視点で、平凡な主婦が犯罪者になるまでの数年間を追っていく。
 お金があれば幸せというわけではない。収入の格差による主従関係。育った環境と現在の落差。そこから生まれる後ろめたさやむなしさは、誰しも理解できるだろう。そういう身に覚えのある感覚を紡ぎ続け、最終的には、共感の大波で読み手をさらってしまう。これがマジックなのだ。
 タイトルの『紙の月』は、ある場面で、それを眺める梨花の空っぽな心情を表している。人生を狂わせる巨額の紙幣も、ある瞬間にただの紙の束になってしまう。本を閉じた後、カバーの絵の風景がきっと胸に迫るはずだ。
 (角川春樹事務所 1500円+税)=尾崎英子

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2012年05月07日16:30
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『望遠ニッポン見聞録』ヤマザキマリ著 逸材でしょ

 『テルマエ・ロマエ』が大ヒット、漫画家・ヤマザキマリの初エッセーである。17歳で単身イタリアに渡って以来、中東、ポルトガルを経て現在は夫、息子とシカゴ在住。南米や中国の秘境にも出かけていく旅バカというから、異文化経験値はかなりのもの。そんな著者の視点で、比較文化的なニッポンの面白さが紹介されている。
 まず、文章がうまい。これがはじめてのエッセー?! コミックエッセーを描いてきたとはいえ、ちょっとすごい。また、これが面白いのなんのって。
 古代ローマ人が現代日本の風呂にタイムトリップするというギャグ漫画を創作するくらいだ、発想もユニーク、笑いのセンスもたしか、しかもアカデミック。さくらももこが『もものかんづめ』で大ブレークしたように、エッセイストの逸材でしょ! とはいえ、お子様には、ちとむつかしいか。万人受けするものじゃないし。ちょっとニッチ。それがいいんだけど。
 イタリア女の恐ろしいまでのヒステリーレベルや、ありえないほどカロリー燃焼が高いブラジル人、顔以外の全身を隠したシリア女の超セクシーすぎる下着事情etc。広いな、世界。どの国にも一長一短があるように、我が国にも良しあしあり。けっこう怪奇で、かなりイケてる。ニッポンよ、大志を抱け。そんなメッセージさえ感じる。海外興味ないし〜という若者にこそ、読んでほしい。
 (幻冬舎 1200円+税)=尾崎英子

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2012年05月07日16:30
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『居心地の悪い部屋』岸本佐知子編訳 開かずの間をこじ開けられる


 ヘンテコな純愛を集めた『変愛小説集』の翻訳家の岸本佐知子が、またセレクトした現代英米文学のアンソロジー。奇妙で、奇想天外で、読んだあとモヤモヤする、そんな短編集だ。
 たとえば冒頭の『ヘベはジャリを殺す』では、ヘベがジャリのまぶたを縫い合わせている場面から、唐突にはじまる。短い物語なので多くは語れないのだけれど、つい目を開けようとするも開けられないジャリに、読んでいるこちらがゾワゾワしてしまうのだ。だって、瞬きしたいのにまぶたを縫われているのよ!? 気持ち悪いよー。
 感覚に訴えかける描写が、この訳者のうまいところ。収録されている12話が、ゾワゾワ、ムズムズ、ゾゾゾッ……と、何だか居心地悪い。静かに恐怖を煽るものもあれば、シュールでユーモラスなもの、詩的で幻想的なものもある。
 訳者のあとがきに、「子供のころから繰り返し見る電車の夢の感覚に近い」小説とある。どこかに行こうと電車に乗るが、全然違うところに着いてしまい、引き返そうとするのにどんどん遠ざかってしまう。編者であるとはいえ、この表現はピッタリだ。不安で、怖くて、夢かもしれないという浮遊感。
 スッキリ爽快にはなれない。頭の中の開かずの間をこじ開けられるような、ちょっとスリリングな読書体験。こういうのもいい。
 (角川書店 1600円+税)=尾崎英子

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2012年05月07日16:30
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